AIが苦手なこと——感情の機微・沈黙・関係づくり

AIに何ができるかは盛んに語られますが、キャリア支援の仕事にとって同じくらい大切なのは、AIが何を苦手とするかを知っておくことです。得意と苦手が分かって、はじめて置きどころが決まります。
対話型のAIが得意なのは、言葉になった情報を扱うことです。文章を読み、整理し、要約し、選択肢を挙げる。この速さと量は、人には真似できません。
裏を返せば、苦手なのは、言葉になっていないものです。そして面談の核心は、しばしば言葉の外にあります。
感情の機微。 クライエントが「大丈夫です」と言ったときの、わずかな声の沈み。「もう決めたんです」と語りながら落ちる視線。言葉と気持ちが食い違う瞬間を、その場の空気ごと受け取って「今、少し無理をされていませんか」と返す——文字を介するAIには、この入り口がありません。
沈黙。 面談の沈黙には種類があります。考えを深めている沈黙、言い出せずにいる沈黙、支援者への抵抗を含んだ沈黙。どれであるかは、それまでの流れと関係の中でしか判断できませんし、そもそも「待つ」ことは、応答の速さを身上とするAIがもっとも持ち合わせていないものです。
関係づくり。 「この人には話しても大丈夫だ」という感覚は、一度のうまい応答で生まれるものではなく、回を重ねた一貫した態度から育ちます。責任を引き受ける存在がそこにいる、という事実そのものが、クライエントの安心の土台になっています。
一方で、これから増えると思われる場面もあります。「AIに悩みを話したら気持ちが整理できた」というクライエントとの出会いです。そのとき、否定から入る必要はありません。話せてよかったことを受けとめたうえで、AIとのやり取りでは扱いきれなかったこと——うまく言葉にならないもやもや、誰かに聴いてもらいたかった気持ち——に、面談の場で丁寧に触れていけばよいのだと思います。
こう並べると分かるとおり、AIの苦手なところは、キャリアコンサルタントの専門性の中心と重なっています。だからこそ、結論は「AIか人か」ではありません。言葉の処理はAIに下支えさせ、言葉の外にあるものは人が引き受ける。苦手を知ることは、AIを遠ざける理由ではなく、正しく使うための出発点です。
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