転職の相談で気をつけたいこと——背中を押しすぎない

「転職しようか迷っています」。この相談を受けたとき、私たちの中には無意識の傾きが生まれやすいものです。話を聞いて「それは辞めたほうがいい」と感じることもあれば、「もう少し今の場所で頑張れるのでは」と思うこともあります。その感触自体は自然なものですが、それをそのまま面談に持ち込むと、クライエントの決断を私たちの価値観のほうへ引き寄せてしまいます。
気をつけたいのは、励ましのつもりの一言が背中を押しすぎてしまうことです。「新しい環境で頑張ってみるのもいいですね」という言葉は、転職に傾いているクライエントには追い風になりますが、まだ揺れている人には「勧められた」と受け取られます。逆に「今は転職市場も厳しいですから」という一言は、慎重さのつもりでも、挑戦したい気持ちにブレーキをかけます。どちらも、決めるのはクライエントだという原則から少し外れています。
中立に関わるために手がかりになるのは、転職という手段の奥にある願いを一緒に見ることです。何から離れたいのか、何に近づきたいのか。それは今の場所では本当に叶わないのか。転職を「する・しない」の二択で扱わず、その人が実現したい働き方や暮らしを軸に置くと、話の重心が手段から目的へ移り、クライエント自身が判断の物差しを取り戻していきます。
私たちの役割は、転職を勧めることでも止めることでもなく、クライエントが自分で納得して選べるように、判断の材料と考える時間を整えることです。背中を押すのは、その人が自分で進む向きを定めた後でいい。転職の相談ほど、私たちの中立性がそっと問われる場面はないのかもしれません。
キャリラボ——本紙の発行元が運営する、学びと練習の場所
キャリアコンサルタントをめざす方と有資格者のためのサイトです。学科・論述・面接の練習、講義動画、セミナーや相互のロープレ練習会まで。国家資格・技能検定2級/1級に対応。登録はメールアドレスだけ・1分で完了: