「結局、どうすればいいですか」と聞かれたとき——助言の求めを断らず、そのまま答えない

「結局、どうすればいいですか」。面談の途中で、あるいは終わりぎわに、こう聞かれた経験のない方は少ないと思います。養成講習では、キャリアコンサルタントは指示や助言をする立場ではないと教わります。しかし、その原則をそのまま持ち出して「ご自身はどうお考えですか」と返すだけでは、クライエントは受け流されたと感じます。ここで必要なのは、求めを断らないこと、そしてそのまま答えないことの両立です。
そのために、まず求めの背景を見分けます。実務では、おおまかに3つに分けると扱いやすくなります。
1つ目は、情報が本当に足りていない場合です。 制度の仕組み、手続きの流れ、その職種で一般的に求められる経験——本人が知らないために決められないだけ、ということがあります。この場合は、答えを出し惜しみする必要はありません。事実として答えられることは答えてください。知っている情報を渡さないことは、支援の中立ではなく、支援の不足です。
ただし線はあります。個別の法律判断、健康や治療に関する判断、税や年金の個別の計算といった、キャリアコンサルタントの職域を超える内容は、一般的な説明にとどめ、適切な窓口や専門職につなぎます。「私はここまでお答えできます。ここから先は◯◯にご相談ください」と、答えられる範囲を明示することも、ひとつの応答です。
2つ目は、決めることの重さを預けたい場合です。 情報はすでに十分持っている。それでも決められない。このとき求められているのは答えではなく、決めることに伴う負担を一緒に持つ相手です。ここで答えを渡してしまうと、決定の責任が支援者に移り、結果が思わしくなかったときにクライエントは自分の選択として引き受けられなくなります。応じ方は、決められない状態そのものを扱うことです。「どちらを選んでも、手放すものがありますね」と、迷いの中身を言葉にします。何を手放すのが最も惜しいのかがはっきりすると、選択の軸が見えてきます。
3つ目は、自分の考えを言っても取り合われてこなかった場合です。 職場でも家庭でも意見を通せなかった経験が続くと、相談とは答えをもらう場だという形しか手元に残らないことがあります。この場合、いきなり「ご自身はどうお考えですか」と返すと、答えを持っていない自分を突きつけられたように受け取られます。先に確かめたいのは、考えが「ない」のではなく「言えなかった」のではないか、という点です。「もしご自身で決めてよいとしたら、いま少しでも傾いているほうはありますか」と、範囲を狭くして尋ねると、言葉が出てくることがあります。
以上を踏まえた応じ方の順序は、次の4つです。①求めを受け止めていることを言葉にする(「そこがいちばん知りたいところですよね」)。②どの背景の求めかを確かめる。③事実として答えられることは答える。④選択そのものは本人に戻す。 ②を飛ばして④に進むと、原則どおりに応じたのに関係が冷えた、という結果になりがちです。
もうひとつ、自分の側を点検しておきたい点があります。「答えないこと」が目的になっていないか、です。答えを避け続ける応答は、原則の遵守に見えて、実際には支援者が判断の責任を負いたくないだけ、ということがあります。原則は、クライエントの自己決定を守るためにあります。自分の身を守るために使われていないか。この確認は、面談の最中にはできません。
ですから、助言を求められた場面は記録に残す価値があります。どの場面で求められたか、そのとき自分がどう応じたか、応じたあとにクライエントの表情や言葉がどう変わったか。前号でお伝えした面談直後の10分の振り返りで書く「分岐点」として、この場面は最も選ばれやすいもののひとつです。書きためていくと、自分がどの背景の求めに弱いかが見えてきます。情報を渡すことをためらいがちなのか、迷いを一緒に持つ時間を短く切り上げがちなのか。癖がわかれば、次の面談で試すことがひとつ決まります。
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