事例検討の観点——「自分ならどうするか」の前にすること

事例検討会に参加すると、発表が終わった直後から「私だったらこうする」「その場面ではこう返すべきだった」という発言が続く——そんな光景に覚えはないでしょうか。善意から出た言葉であっても、これが続くと発表者は小さくなっていき、次から事例を出す人がいなくなります。
「自分ならどうするか」を考えること自体は、事例検討の大切な収穫です。ただし、それは最後に来るものであって、最初にするものではありません。その前に踏むべき段階を、順に挙げてみます。
第一に、事例を分かろうとすることです。 クライエントはどんな状況で、何を語り、発表者はそれをどう受け取ったのか。まず質問によって事例の解像度を上げていきます。このとき「なぜ○○しなかったのですか」という問いは、質問の形をした批判になりがちです。「その場面で、どんなことを感じていましたか」と、発表者の内側を尋ねる問いのほうが、事例は豊かになります。
第二に、発表者の意図を汲むことです。 どんな面談にも、その場でのその人なりの判断があります。うまくいかなかったように見える応答にも、「話題を変えたのは、クライエントがつらそうに見えたから」といった理由があるものです。意図を聞かずに結果だけを評価すると、検討は浅くなります。「そのとき、何を大事にしてその応答を選びましたか」という問いは、事例を深めると同時に、発表者自身の気づきも引き出してくれます。
第三に、クライエントの側から眺め直すことです。 この面談を、クライエントはどう体験しただろうか。何を持ち帰っただろうか。この視点の転換が入ると、検討は「発表者の採点」から「支援の探究」へと変わります。クライエント不在のまま進む検討は、どれほど熱を帯びても、支援の役には立ちにくいものです。
ここまで来て初めて、「では、自分がこの面談者だったら」という問いが活きてきます。事例が十分に理解され、発表者の意図が汲まれた土壌の上でなら、同じ言葉も批判ではなく贈り物として届くからです。
事例を出してくれる人は、検討会にとって最大の貢献者です。その人が「出してよかった」と思えたかどうか。会の終わりに「今日は出してくださってありがとうございました」の一言を置く。それだけでも、次に事例を出す人は現れやすくなります。
キャリラボ——本紙の発行元が運営する、学びと練習の場所
キャリアコンサルタントをめざす方と有資格者のためのサイトです。学科・論述・面接の練習、講義動画、セミナーや相互のロープレ練習会まで。国家資格・技能検定2級/1級に対応。登録はメールアドレスだけ・1分で完了: